
重度の聴覚過敏を抱える当事者として、改めて発達障害と音について考えてみようと思います。
そもそも、発達障害の聴覚過敏とは、ASD(自閉スペクトラム症)の人が抱える問題です。
小さな音でも拾ってしまったり、普通の人が感知しない低周波の影響をモロに受けます。
定型発達の人は、もともと脳に「音のフィルター(減衰・順応機能)」が備わっているようです。
でも、ASDはその機能が無くて(もしくはものすごく低い)「音全部オン」状態。
脳の初期設定が「過敏モード」で、音に無防備状態です。
ADHDの人の場合は、聴覚過敏というよりも、音に反応してそちらに持っていかれてしまうという注意制御の問題です。
音の感知そのものに関しては、定型発達の人とほとんど変わらないようです。
ASDとADHDは、どちらも音に「気づきやすい」点では共通していますが、苦痛の質はまったく異なります。
ASDでは、音を常に頭や体が勝手に受け取ってしまう。
ADHDでは、音に気を取られ、時間や意識を持っていかれてしまう。
でも、発達障害は、ASDもADHDも両方併発している人も多いです。
この場合の聴覚過敏は最悪です。
ASDの音に対するすべての敏感さに加え、さらにADHDのその音に対する意識を持っていかれ、より苦痛を感じてしまう。
ASD当事者でADHDも少しかじっている私の場合、近所の室外機の低周波振動音に意識を持っていかれ、常に頭と体に振動を送られ続け、ストレスが異常にたまる。
そして、低周波を少しでも感知すると、心臓がバクバクしその音の出所に意識を持っていかれる。
一度気になったら、音が消えるまでずっと精神が不安定になり続けます。
ASDのこだわりやADHDの気持ちをそっちにもっていかれるなどの問題が関係しているかもしれないです。
ASD・ADHD・ASD+ADHDにおける聴覚の特徴比較表
| 観点 | ASD | ADHD | ASD+ADHD(併発) |
|---|---|---|---|
| 音の入り方 | すべての音が強く入る | 音の強さ自体は比較的普通 | すべての音が強く入る |
| 自動的な音の減衰・ブロック | 弱い/効きにくい | 比較的保たれている | 弱い |
| 低周波・環境音(モーター音等) | 特に影響を受けやすい | 定型発達と同程度 | 強く影響を受けやすい |
| 音の「消えなさ」 | 音が背景にならず残り続ける | 気にならなければ流せる | 音が消えず残り続ける |
| 注意の向き | 音そのものが苦痛 | 音に注意が引きずられる | 音に注意が貼り付く |
| 注意の切り替え | 比較的可能なこともある | 切り替えが苦手 | 切り替えが極めて困難 |
| 主な苦痛の正体 | 「音がつらい・耐えられない」 | 「音で集中が壊れる」 | 「音がつらい」+「逃げられない」 |
| 主観的な表現例 | 「音が刺さる」「ずっと鳴っている」 | 「気が散る」「頭が持っていかれる」 | 「耳栓しても頭で鳴る」「思考が吸われる」 |
| 消耗の度合い | 中〜高 | 中 | 非常に高い(慢性的) |
一言でまとめると
- ASD:音の入力処理(ブロック・順応)の問題
- ADHD:音への注意制御の問題
- ASD+ADHD:
「音が強く入り、しかも注意が離れない」→最も消耗しやすい状態
聴覚過敏が精神疾患とともに急に悪化する?
聴覚過敏は、精神疾患の影響で悪化するのでしょうか。
個人的に「悪化する」と思っています。
私は子どもの頃から音に敏感で、親から「神経質すぎる」と言われることがよくありました。
周囲の人には聞こえないような小さな音を知らせて、困らせていた記憶もあります。
ただ、その頃は、それを「聴覚過敏」だとは自覚していませんでした。
音に敏感な状態が生まれつき当たり前だったため、特別なことだとは思っていなかったのです。
はっきりと異常だと感じるようになったのは、引きこもり生活に入ってからでした。
近所の室外機から出る低周波振動音に悩まされるようになり、初めて自分の音の感じ方が普通ではないとわかったのです。
でも今振り返ると、20歳前後の頃からすでに周囲の音に対する敏感さはあったと思います。
引きこもりになる前も、低周波の影響を受けていなかったわけではないと思います。
ただ、その頃はまだリアルで生きていたので、音に意識が向き続ける状況ではなかった。
「気になるけれど耐えられないほどではない」状態で済んでいたのだと思います。
長期の引きこもりから、精神疾患やうつ病になり、生まれつきの精神の弱さのHSP気質に加えて、ASDの聴覚過敏が一気に表に出てきたのだと思います。
音に対する感受性が変わったというよりも、音に対して無防備な状態が長時間続くようになった感覚に近いです。
リアルで生活していた頃も、常に不安感やストレスを感じ続けてはいました。
それでも、今の引きこもり生活ほど、聴覚過敏が悪化している感覚はありませんでした。
この経験から、精神疾患や抑うつ状態が、もともとあった聴覚過敏を増幅させたと感じています。
聴覚過敏のある子どもについて
聴覚過敏のある子どもは、想像以上に大変な状態に置かれていると思われます。
特に0~3歳頃までは、音をうまく無視できない時期です。
音に対する感知が非常に鋭く、それだけで不安や苦痛を感じ、泣いてしまいます。
寝ているときでも、起きているときでも、周囲の音が常に頭に入ってきてしまい、「気づかないでいられる時間」がほとんどないのです。
聴覚過敏がある子供は、定型発達の子どもと比べると、育てにくさを感じてしまうと思います。
発達障害による聴覚過敏でなくても、生まれつきHSP気質があり音に敏感な子どもは、刺激に耐えきれず泣いてしまうことがあります。
でも、ASD由来の聴覚過敏の場合、その強さや持続性は、HSP気質とは比べものにならないです。
音が「気になる」レベルではなく、身体や神経に直接負担として入り込んでくるような感覚になるからです。
もし、子どもが音に強く反応していると感じたら、できるだけ静かな環境にいさせてあげてほしいと思います。
無理に慣れさせようとせず、「音から守る」ことが必須です。
特に、低周波を含むモーター音や換気扇、プロペラ音などは、大人が思っている以上に、脳や身体に振動として伝わり、子どもにとっては尋常ではないストレスになることがあります。
泣いている理由が分からないとき、「わがまま」「神経質」と受け取られてしまうこともありますが、その裏で、子どもは必死に刺激に耐えているのかもしれません。
聴覚過敏は治るのか
発達障害、特にASD由来の聴覚過敏について、現代の医学では「治す」方法はありません。
感覚の感じ方そのものが脳の特性であり、薬や訓練で完全に元に戻すことはできない、というのが現実です。
よく「慣れれば大丈夫」「我慢すればいい」と言われますが、正直、それは無理です。
日常的な雑音やテレビの音、人の声などは、聞こえすぎてつらくはあるものの、なんとか耐えられる範囲で済むこともあります。
しかし、低周波だけは別です。
低周波の振動音を感じ続けると、精神がじわじわと追い詰められ、自分でもコントロールできないほど心が不安定になります。
私の場合、この状態が続くと、普段の自分では考えられない行動を取ってしまいそうになるほど、強いストレスで追い込まれました。
実際、重度の引きこもりで対人恐怖もあり、外出すら困難な状態にもかかわらず、近所の低周波騒音について、苦情の手紙を出したことがあります。
冷静であれば決して選ばない行動です。
それほどまでに、低周波による聴覚過敏は「我慢してはいけないもの」だと、身をもって感じています。
ASDの聴覚過敏は、「治す」ものではなく、避ける・減らす・守ることでしか対処できない特性だと思います。
HSPの聴覚過敏は治るのか
HSPの聴覚過敏は、ASDとは性質が異なります。
HSPの場合、
音そのものの感知が異常に強いというより、刺激に対して神経が高ぶりやすく、疲れやすいことが原因です。
そのため、
- 環境が落ち着く
- ストレスや不安が減る
- 生活リズムが整う
といった条件がそろうと、症状がかなり軽くなる、あるいはほとんど気にならなくなることもあります。
HSPの聴覚過敏は、
- 悪化することもある
- でも回復する余地もある
という点で、可逆性が比較的高いと言えます。
「治る」というより、「落ち着く」「弱まる」可能性がある、という表現が近いです。
ADHDの聴覚過敏は治るのか
ADHDの場合、
いわゆる聴覚過敏の正体は、
音そのものではなく、注意の向きやすさ・切り替えにくさです。
そのため、
- 薬物治療(適切に合った場合)
- 環境調整
- 生活リズムの安定
- 注意の使い方の工夫
によって、かなり楽になるケースが多いです。
ADHDの聴覚過敏は、
- 音が痛い → ×
- 音に引きずられて消耗する → ○
なので、対処がうまくハマると「昔ほど気にならない」状態まで改善することがあります。
聴覚過敏は「全部同じ」ではない
- ASD
- 治らない
- 我慢は不可能
- 特に低周波は避けるべき
- HSP
- 環境や精神状態で大きく変わる
- 落ち着く可能性がある
- ADHD
- 注意の問題
- 対処次第でかなり軽減する
聴覚過敏は一括りにされがちですが、原因が違えば、向き合い方もまったく違うと思います。
まとめ
今回は、聴覚過敏について改めて考察してみました。
この寒い冬の時期、どこにいてもほとんどの人が近所の室外機の低周波音にさらされているのではないでしょうか。
「なんかうるさいな~」と感じていても、原因がわからない。
親や兄弟に相談しても、「聞こえない」と言われる始末。
もしこのような状態なら、聴覚過敏を疑った方がいいかもしれないです。
放っておくと、いつの間にか低周波障害や音に対するノイローゼに発展してしまうからです。
私はそうなってしまい、今では少しの低周波でも心臓がバクバクしだして強い不安感を感じてしまいます。
また、引きこもりによる精神疾患の悪化から、さらに音に対する感知が高くなっているのを実感しています。
先天性の精神の弱さやHSP加え、23年以上ほぼ誰ともかかわらず引きこもっていると、周囲に対して物凄く過敏になってしまうからです。
そして、発達障害(ASD)の場合、音を防ぎようがないという悲劇。
普通の声やテレビ、物音などは耳栓やイヤーマフなどである程度防ぐことができます。
しかし、低周波だけは無理なのです。
なぜなら、骨に直接振動が伝達し、脳や体に聞こえてくるからです。
強力なイヤーマフ(ヘッドフォン)をしていても、それでも2~30%くらいしか防げない。
もはや、低周波が発生していない場所へ避難するしかない。
地下室や、防音部屋などがあればいいのですが。
日本は、騒音規定が企業や工事などではあるのですが、近所の発する騒音に対しては、個人で対処を強いられてしまいます。
現に、市役所の騒音課に電話で相談した時も「直接言うしかない」と言われました。
日本は本当に騒音問題に対して法整備が甘いと思う。
世界では、ドイツの例でいうと平日は夜 22:00 ~ 朝 6~7:00 が静寂時間となります。
日曜日・祝日は終日静かにすべき
という規則があり、これらの時間帯に大きな音を出すことは基本的に禁止されています。
フランスにも近隣の騒音・夜間騒音として騒音自体を法律で禁止する仕組みがあります。
日本では事業者重視、個人間トラブルは自己解決が基本となっています。
この辺を本当に政治家がどうにかして欲しい。
でも、聴覚過敏を抱えている人の割合は少数派なので、絶対に解決してくれないと思います。
本音を言えば、重度の聴覚過敏で日常生活が成り立たなくなっている人に対して、防音環境の整備や引っ越しなどを支援する制度があってもいいのではないか、と個人的には思っています。
