
「自閉的慣性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
私は最近、この言葉を初めて知りました。
検索しても詳しく書かれている記事は見なかったのですが、心理学・精神医学では一般的な概念のようです。
特にASDについての特性を説明する概念で、行動の開始や切り替えが難しくなる状態のことを指します。
自閉的慣性とは、何か目標があってそれをしなければならない、しようと決めているのに実際に行動に移せない状態です。
もしくは、一度何かを始めてしまうと途中でやめられず、ずっと夢中になってしまう。
まさに、ASDの人の特徴に当てはまっていると思います。
特に私はこの自閉的慣性を物凄く実感しています。
例えば、AIで稼ごうと意気込んで「やる」と決めたにもかかわらず、なかなか手が付けられない。
いや、最初5分くらい触ります。
しかし、直ぐに辛くなってやめてしまう。
違うことに意識が向いてしまい、気づいたらそちらを深堀して何時間も過ぎている。
説明書やロードマップなどやり方が明確で手順があることではないので、何から手を付ければいいのか分からなくなる。
そして、頭の中で考えているだけの状態になり、気づけば別のことに意識が向いてしまう。
自由だと何をしていいかわからなくなり、いつもの作業のループに逃げます。
さらに、完璧主義(0か100か)のような考え方もあります。
間違いやミスはないか、問題は起きないかなどを延々と考えてしまい、なかなか着手できない。
やることが明確だったり、誰かが指示してくれたり、その通りにやれば大丈夫という安心感が欲しい。
そして、永遠とそれを続けたい。
でもそこには、わからないことだったり、自分では解決しずらい問題が起こる、一度つまずいてしまうと意識が他に向いてしまう現実逃避になる危険性もあります。
戻ってこれるかどうかは、運しだい。
ここでいう運とは、解決策が見つかり軌道に乗る状態です。
要するにその方法を偶然見つけられるかどうか。
そもそもASDは、新しいことや未知のことに対する拒絶感、やりたくない感が本当に強いです(個人差はある)。
これは、何が起こるのか分からない状況に対して強い不安を感じやすいからです。
やり方が決まっていること、手順がはっきりしていることなら取り組めるのですが、「どうやればいいのか分からないこと」「途中で問題が起きそうなこと」になると、一気にメンタルブロックが発動します。
そして、頭の中でいろいろ考えているうちに疲れてしまい、結局なにも進まない。
気づけば、別のことを調べていたり、ニュースを読んでいたり、関係ないことに時間を使ってしまう。
怠惰というよりは、ASDの脳の問題なので仕方がない。
自分では「やりたい」と思っているのに動けないので、本人としてはかなり苦しい状態だったりします。
この状態を説明する言葉として「自閉的慣性」という概念というか言葉は、的を得ていると思います。
自閉的慣性は、英語では Autistic inertia と呼ばれますが、日本ではほとんど聞かれない言葉です。
海外では普通に認知されていますが、日本ではこの概念が、「行動開始困難」、「行動切替困難」、「実行機能の困難」などの言葉で説明されることが多いようです。
発達障害ASD・ADHDの自閉的慣性の関係
基本的に自閉的慣性は、ASDの人の脳の特性から使われる言葉だと思います。
ASDの、
・行動の切り替えが苦手
・こだわりが強い
・興味のあることに強く集中する
などの特徴によって良く起こるメンタルの問題だからです。
しかし、ADHDの人も、自閉的慣性のような思考になることがあります。
・注意が別のことに逸れてしまう
・興味のあることに過集中してしまう
・やるべきことより刺激の強いことに引っ張られる
このようなADHDの特性によって、「やると決めたのに動けない」という状態になることがあるのです。
でも、自閉的慣性という言葉自体は、主にASDについての研究や考察で使われることが多いようです。
ASDの特徴として知られている
・行動開始が難しい
・行動の切り替えが難しい
・一度始めると止まらない
というような傾向を説明するために使われる用語だからです。
割合を正確に示した研究は見つかりませんでしたが、個人的な印象としては、ADHDの人よりもASDにかなり当てはまりやすい言葉だと思います。
ただ、ASDとADHDは併発している人も多いので、そのような線引きはあまり関係ない気もします。
自閉的慣性の対策方法
ASD当事者として、本当に難しい問題です。
大体やろうとしていることが、難しい、今まで逃げて後回しにしていた、不確実性など、脳がやりたくない枠に分類されてしまうからです。
頑張ろうとしても、完璧に情報を仕入れてからとか、間違いやミスをしない、少なくともしょぼい出来にはしたくない、など、色々と考えてしまうのです。
そして、さらにこれらを細部まで考え込んでしまい、着手できない。
本当はとにかく手を動かして、行動して結果を出さなければならない。
しかし、過程を考えたりや情報収集が永遠と終らない。
結局、脳がつかれてしまいやる気が失せる。
また、調べているうちに他の情報が出てきて全く関係のないことに連鎖して、そっちに行ってしまう。
自分でもわかっているのですが、どうしても切り替えて集中できない。
自閉的慣性に対処・治すにはどうすればいい?
一番は、やるべきことが明確になっていて、やればゴールに近づけると分かっているようにすることです。
その過程で多少つまずいても、すぐに問題を解決できる見通しがある状態です。
要するに、お膳立てしておいてほしい。切実に。
でもそのような思考になると、ただの指示待ち人間、使われる側になってしまいます。
自分でクリエイトし、独自で考え、自己責任で何事にも臆することなく挑戦できる。
これが理想ですが、ASDの脳の特性とは、どうしても相容れない部分があるように思います。
結局、対処法としては、あきらめず夢中になれる状態に持ち込めるかどうか。
ASDは、大好きになるほどに一心不乱状態に持ち込めれば強いはず。
何故かゲームや楽しいことなど、自分の好きなことに関しては、1日中できる。
このような状態に持っていければASDならではの強みが発揮されるのかもしれないです。
あとは、最初から全部まとめてみたいな考えではなく、やることを区切る、少しずつ達成する、などがよく言われる対処法です。
1つやって完了させて成功体験を積んでいく感じでしょうか。
また、余計な情報を遮断することもかなり重要だと思います。
ニュースやSNSなどを見てしまうと、そこから別のことを調べ始めてしまい、気づいたら何時間も経っていることがあります。
やるべきことの情報以外を遮断する。
でも強い決意や危機感が無いと難しい。
だから、やることを小さく区切って短時間作業、そして脳疲労を起こさないようにこまめに休憩する。
もう一つ効果があると思うのは、作業を終えるときに「次にやること」を決めておくことです。
そして、その作業が終わるまでは他のことをしないようにする。
やるべきことを明確にしておいて、立ち止まらない、迷わない状態にするということです。
ASDの自閉的慣性は、怠けと思われてしまうかもしれない。
でも実際はそう単純なものではなく、ASDの特性が大きく影響している部分もあります。
だから、自分の意志の力だけでどうにかしようとするのではなく、環境ややり方を工夫しないと本当に難しいのです。
まとめ
今回は、自閉的慣性について考えてみました。
自閉的慣性とは、行動を「始める」「切り替える」「止める」ことが難しい状態のことです。
・やろうと思っているのに 行動を始められない
・一度始めたことを やめられない
・別の作業に 切り替えられない
・頭では理解しているのに 体が動かない感じ
発達障害でない人でも、このようなことはあると思います。
でも、発達障害の人の場合、この実行機能の制御が特性によって難しくなっている状態なのです。
特にASDの場合、不確かなことや、先の見通しが謎、明確なやり方がわかっていないなど、状況が曖昧で何をすればいいのか分からない状態だと本当に自閉的慣性が強くなります。
それでも気合で進めてみても、わからない問題に直面した時、1つ1つを完璧に把握するまで調べてしまう。
そして、さらにそこから派生して気になる情報を深堀する。
結局、本来すべきことが全く進まずに、疲れ果てて他の楽で楽しいことに逃げてしまいます。
でも逆に、このようなつまづく要素が無い、もしくは解決がスムーズに進んで、精神的に辛い、つまらない、やりたくない、というようなネガティブな感情の入る余地が無くなれば、かなり熱中し続けることがあります。
この場合も、逆に別の事を後回しにし続けて、それ一筋になります。
結局何が言いたいかというと、導いてくれる頼りになる存在が必要だということです。
学校(勉強)で言えば、教師という存在ではなく、マンツーマンで助言してくれる家庭教師のような存在。
仕事(働く)という面で言えば、完璧なマニュアル、ミスしてもカバーできる安心感、困ったときにすぐ相談できる上司や先輩の存在。
このような環境があると、自閉的慣性による「動けない状態」はかなり軽減されるはずです。
少なくとも、発達障害当事者の自分からすると、そういった環境があればまた違った人生の分岐点があったと強く思うからです。
